「おじゃまします~」
さわやかな笑顔でメガネ女子が病室に現れた。
シフトで頻繁に変わる看護師さんやお茶を補給してくださる方など、とにかく登場人物が多く、加えて制服やマスクのせいで顔を覚えられない。ただメガネ女子は全身から醸し出される雰囲気から普通の看護師さんではない気がした。
「言語療法を担当します、メガネ女子です~」
そういえば救急搬送された日もこのメガネ女子が病床に現れ、イラストの名称を答えさせられたことを思い出した。
「今日は良い天気ですね~。吉田さんは休みの日に何をしているんですか?」
「そうですね、山登りとかサイクリングとかですね。」
・・・
・・・
アイドリングトークが10分ほど続く。やけに長い。
「吉田さんのご出身はどちらなんですか?」
「生まれは岡山ですね、、、、(もしや試されている?、、、)」
脳梗塞が発生した場所によっては呂律が回らなくなったり、失語症になったりするようである。言語療法はそういった症状の発見と改善を目指す時間のはず。あまりに長いアイドリングトークに試されている可能性を感じた僕は(慎重に、、、絶対に噛んではいけない、、、)と背筋を伸ばした。
改めてメガネ女子の顔を見ると微笑みを浮かべた口元とは対照的に、メガネの奥は眼光鋭く光っていた。
(気が付いたわね・・・)
負けじと僕は
(気づいたことに気付いているぞ・・・)
さらにメガネ女子は
(気づいたことに気付いたことに気付いて・・・)
・・・
冷や汗をかきながらアイドリングトークを乗り越え、最後に申し訳程度に間違い探しのプリントをやって、初回の言語療法を終えた。
次回、「敵か味方か!?メガネ女子!!」ぜってえ読んでくれよな!