徒然草ァ!!

リハビリ随筆

散髪ビジュアライズ

脳梗塞で入院して以来、1か月半散髪ができていない。それとともにひげも伸び放題である。倒れてすぐは寝たきりでひげを剃るどころではないし、最近こそ余裕が出てきたものの一定以上伸びてしまったため電気シェーバーでは剃れなくなってしまった。

口ひげと顎ひげが繋がった状態、無精ひげを超えて武将ひげになっている。

信長の野望で言うと、地方にいるパラメーター平均10くらいの武将だ。だれも登用してくれないので、ずーっと在野にいるやつ。

で、いい加減うっとうしいので散髪できないかどうか看護師さんに相談したところ、外部業者が出張理容室として来てくれるとのこと。事前予約で、「カット(3,600円)」「丸刈り(3,300円)」をどちらか指定する。

丸刈りで申し込もうかと思うが・・・高くない?)

「出張」理容室なのでその分割高なのだと自分を納得させようとするが、それにしても・・・宅配ピザの原価がめちゃ安いみたいなもんですか。

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2024年12月11日、いよいよその出張理容室が来てくれた。

病室があるフロアの廊下の端に案内される。

(・・・?? ここで散髪するの?)

写真を撮るわけにもいかないので、AIに描いてもらったイメージがこちら。

ほぼこんな感じ。

戸惑いながら着席し散髪していただいた。

掃除がしやすいなどの理由は推測できるが、もう少しこう・・・あるだろ・・・

 

丸刈り指定でひげも含めてバリカンで刈っていただいた。プロセスはともかく散髪後の仕上がりには満足している。

丸刈りでひげも剃ったので、「僧侶が入院し、パジャマを着ている絵を描いて」とAIに指示して出てきたものがこちら。

僧侶に引っ張られすぎている・・・が、ほぼこんな感じ。

 

次回、「毎朝の検温と読経について」ぜってえ読んでくれよな!

介護認定者との戦い

ある日、配布されたリハビリ予定表に見慣れぬタイトルが記載されていた。

「介護認定 13:00~13:30」

よくよく記憶をたどると数週間前の医師との面談の際に勧められていたことを思い出した。自治体に要介護度合いを判定いただき、ランクに応じて今後購入する介護用品などが割引されるとのこと。その判定のための面談である。

ありのままを判定いただく前提かとは思うが、僕としてはなるべく割り引いて欲しいし、自治体としてはなるべく予算を抑えたいだろう。

これは厳しい戦いになることが予想された。

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リハビリ病院スタッフには見えず、かといって見舞い客にも決して見えない妙齢の女性が談話室の椅子に腰かけていた。

「こんにちは。自治体オバです。」

自治体オバは極めてビジネスライクに介護認定面談を進めていく。その場に病院側からも若い女性の看護師さんが立ち会ってくれていた。

ピリついた雰囲気の中、自治体オバが質問をしていく。

「あなたのお名前と年齢を教えて? 今日は何年の何月何日?」

そのような脳梗塞あるある質問は、これまでに数十回と答えてきた。馬鹿にしてもらっては困る。

「今飲んでいる薬の種類を教えて?」

「薬の種類!?・・ええと、血液サラサラ薬と、、、」

あたふたする僕を見かねたのか、看護師さんから助け舟があった。

「バイアスピリンと○○と△△です。」

(・・・若いのにしっかりしとる、、、君は「しっかりネキ」と名付けよう。)

 

しっかりネキの活躍もあり、介護認定面談はつつがなく終了した。

しかし本当の敵は自治体オバではなかったことがこの後判明する。

 

介護認定の面談が終わった後、病室に戻り際にしっかりネキから黄色い声で告げられた。

「吉田さん49歳なんですね。私の両親と同い年です~♪♪」

リアル息子が小6の僕は激しく動揺し、

「そ、そ、そうなの!? 奇遇だねぇ!」

と返すのが精いっぱいだった。

 

しっかりネキ、、、君は「わが娘ネキ」へと改名しよう。

 

後日、ナースステーション周辺でわが娘ネキを見かける度にアイコンタクトを送るのだが、彼女は何事もなかったかのように感情ゼロの真顔を返してくる。

 

次回、「吉田さん・・? 誰でしたっけ?」ぜってえ読んでくれよな!

It's My Life

脳梗塞からの回復期。残る課題の右脚について、総合点は30から40点程度だが、不思議なことに筋肉の部位ごとに全く点数が違う。太もも前面の筋肉は80点あるにも関わらず、つま先を上げる筋肉に至っては5点程度。

そのつま先を集中的に治療するため、理学療法担当の眼光ニキが最終兵器を持ち出した。

オージー技研(株)のアイビスプラス GD-611だ。

イメージとしては低周波治療器。パッドを足に張り付けそこに電気を流すことで強制的に筋肉を動作させる。ただしさすが業務用。電気の威力が桁違いである。

「痛くなったら教えてくださいね~」

眼光ニキがサディスティックな笑みを浮かべながら電気の出力ボリュームをじわりと上げていく。

「・・・・うぅ、、ぐっ、があああ!!!」

「はい、では痛くなるギリギリの出力でセットしますね。」

 

アイビスプラスの治療メニューは基本1セット20分。その間に通電が10秒ずつ、間にインターバルを5秒挟む。

「ぎゃあーー!!」(・・5秒・・)「ぎゃあーー!!」(・・5秒・・)

 

人間は苦痛そのものではなく苦痛がもたらされることを待つ時間にこそ恐怖を感じると何かのマンガで読んだ気がする。

恐怖のインターバル時間を埋めるべく、脳内にBGMを流そう。

ここはボンジョビの「イッツマイライフ」しかないだろう。

youtu.be

(♪ You're gonna hear my voice When I shout it loud ドン・ドン)

(♪ It's my )「ぎゃあーーー!!」

 

治療メニューが20分で設定されているのは、それ以上連続で使用すると人体に悪影響がある為だそうだ。

 

理学療法の度に終了後これを自分でセッティングして自主練してください。」

と眼光ニキがのたまう。

 

(一日に3コマある日もあるんですが、、、)

眼光ニキ、実にサディスティックである。

 

次回、「アイビスするのかい、しないのかい、どっちなんだい」ぜってえ読んでくれよな!

コンソメパンチの国から

おやつが食べたい。

現在入院中の病院の食事は決してまずいわけではない。一般的な病院食のイメージである塩分が足りず味気ないという感覚はないのだが、長期入院になってくるとさすがに飽きてくる。

幸いなことに病室からエレベーターで一階に降りるとコンビニ的な売店があり、入院中に必要なものは大概そこで調達できる。お菓子コーナーにて2週間に一度くらいの頻度で食べたくなるポテトチップスを物色する。

品ぞろえこそ一般的なコンビニに劣るものの様々なお菓子の陳列がある中で、ポテトチップスを一種だけ発見した。

 

「ポテチを一種類置くなら、うすしおでしょうが!!(CV: 田中邦衛)」

 

コンソメパンチも非常に人気があるテイストだということは理解している。ただ申し訳ないが僕は「うすしお」派だ。なるべくシンプルな味を楽しみたい。

しかしながら背に腹は代えられない。コンソメパンチで妥協するか、、、と商品を手に取りかけたその時、商品名の下に追記された吹き出しが目に留まった。

 

(パンチアップ・・・?)

「苦手な風味を強調されたら、妥協できないでしょうが!!!(CV: 田中邦衛)」

 

その後、手ぶらですごすごと病室に戻った。

 

次回、「それでもポテチが食べたいわけで・・(CV: 吉岡秀隆)」ぜってえ読んでくれよな!

夜歩く

現在入院中のリハビリ病院は21時に消灯となる。病院としては一般的な消灯時間だろうか。ただこの時間に布団に入ると、どうしても深夜に目が覚めてしまう。

とある日の丑三つ時、目が覚めた僕はトイレに行くついでに病棟を歩いてみようと思った。日中のリハビリ時間は限られるため、少しでも自主練の時間を増やしたほうが良い。

僕の愛車、パラマウントベッド(株)の歩行器KA-392を引っさげ薄暗い病棟の廊下を歩く。

吉田健康は随筆家であると同時に歌人でもあるので、歩みを進めながら思わず歌を口ずさんでしまう。

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病棟を、周回。

気分は、爽快。

go around 足音響く surround

 

アクセルは、全開。

暗闇を、徘徊。

その姿まるで

夜歩く、妖怪。

 

Creepy Nutsよろしくご機嫌で自主トレにいそしむ。

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次の日の朝、検温の際に看護師さんに指摘された。

「吉田さん、昨晩3時ごろ歩き回ってましたね」

「見られてたんですか・・・あれは自主練でして、、、」

 

看護師さんに、弁解。

 

次回、「看護師さん、ああそうかい。」ぜってえ読んでくれよな!

 

ハイエンドモデルへの乗り換え

2024年11月下旬

「そろそろ車いすからステップアップをしましょうか」

理学療法担当の眼光ニキから提案があった。

脳梗塞発症から1か月と少し。右足の回復もゆっくりとではあるが進んでおり、装具をつけた状態での歩行が安定してきていた。

「望むところです」と答えた僕に、眼光ニキが持ってきたものが以下。

パラマウントベッド(株)の歩行器KA-392だ。

 

「こ、これは、、、もしや、これ?」

そう、1歳前後の赤ちゃんが利用する歩行器と、考え方は同じである。手遊びできるおもちゃはついていないが代わりにブレーキと小物が置ける台が装備されている。

グリップはエアロポジションが取りやすい設計になっており、快適なライディングが期待できるオールラウンドモデルである。

車いすでの移動に慣れてきたところで手放すのは後ろ髪ひかれるが、社会復帰に向けてなるべく最短距離を進んでいきたい。

 

車いすを返却し、新たな歩行器で第一歩を踏み出す。

 

(遅っそ・・・)

車いすでは病院内一の巡航速度(推定6km/h)を誇っていたが、自分の足での移動となると健常時の歩行速度よりも遅いため、とにかく時間がかかる。

ただこれも社会復帰のためのクリアすべきハードルである。

国会の牛歩戦術要員に雇ってもらえないだろうか。

 

次回、「吉田君!速やかに投票をお願いします!」ぜってえ読んでくれよな!

落語長すぎる奴

現在の病院は病室を出るとすぐにリハビリスペースとなっており、さすが専門病院といった趣を感じさせる。

ゆえに僕が休憩時間の時でもそのスペースで別の患者のリハビリが行われていることが多い。

高齢の患者が多いため必然的に会話のボリュームが大きめとなり、病室に居ても会話の内容が耳に入ってくる。

「・・・5000万くらいかのう・・・」

何やらビッグビジネスの話をしているオジイがいる。盗み聞きをしているつもりはないのだが声がでかいので自然に耳に入ってくる。

面白そうなので病室を出て本格的に盗み聞きをしてみた。

 

「・・・ワシは6000万でもいいと思うんじゃ、前年シーズンの成績を考えると・・・」

どうやらプロ野球選手の年俸の話のようである。

理学療法の先生と思われる方がいい感じに相槌を打っている。

理学療法は歩行などのリハビリを行うが、高齢の患者さんの場合は体力が続かないためしばしば休憩をはさむ。その間に世間話に花が咲くのだ。

 

「あいつは監督の言うこと聞かないからのう、、、それで中々年俸が上がらないんかもしれん。実力はチームでも、、、」

彼のことは、「おしゃべりジイ」と呼ぶことにする。

 

おしゃべりジイはますますヒートアップし話し続ける。

「その時監督は言ったんじゃ、『あの場面ではスクイズしかないだろ!』『お言葉ですが監督、結果オーライだったじゃないですか!』」

落語スタイルでの語りが始まった。おしゃべりジイ・・・いったい何者??

理学療法の先生はいい感じに相槌を打っている。

 

おしゃべりジイの落語はその後30分近く続いた。

「リハビリしろよ!」と言いたいところだが患者さんの症状は様々である。きっと彼に相応しいリハビリがこれなんだろう。

 

思わずジャルジャルの「落語長すぎる奴」を思い出し、見返してみた。

youtu.be

 

次回、「おしゃべりジイ VS おしゃべりニキ~炎の友情」ぜってえ読んでくれよな!